過去最高額の下請法違反 ~「買いたたき」規制

社会常識としての独占禁止法80

 

 このコラムでは、企業が守るべきビジネスルールとしての重要性を増している独占禁止法について、お話ししています。
 最近、下請法の禁止行為である「買いたたき」について、過去最高額の違反事件がありましたので、今回はこれを取り上げたいと思います。

 

1 買いたたきとは 

 「買いたたき」は、独占禁止法及び下請法(下請代金支払遅延等防止法)の禁止行為の一つです。簡単に言うと、

「発注者は、受注者(下請事業者)に対し、同種・類似の取引の通常の対価と比べて著しく低い下請代金を定めてはならない。」

というルールです。

よくある誤解は、
「買いたたき規制は、下請法が適用される下請取引以外には関係ない」
というものです。

 確かに、買いたたきはいわゆる下請けいじめの典型例であり、これを禁ずる一番わかりやすい条項は、下請法にあります(下請法4条1項5号)。
 しかし、買いたたきは、発注者と受注者の間に優越的関係さえあれば、どのような取引においても成立し得ます。
 下請法が適用されない取引で買いたたきを行うと、独禁法違反(優越的地位の濫用)となります(独禁法19条、2条9項5号)。下請法の下請取引以外には関係ないというのは全くの誤りです。

 買いたたきには刑罰があります(下請法10条以下)。
 公正取引委員会による排除措置命令の対象となり、課徴金納付命令を受ける可能性もあります(独禁法20条、20条の6)。

2 過去最高額の買いたたき事件

 最近、過去最高額の「買いたたき」違反事件がありました。
 違反したのは、大手自動車メーカーNです。


 報道に拠りますと、N社は、自動車のエンジンやバッテリーなどに使われる部品の製造を委託している下請け企業に対し、「割戻金」という名目で、事前に取り決めた金額から数%減額して代金を支払っていた、とされています。
 その減額分は、過去数年間で約30億円とされています。これは、1956年の下請法施行以来、最高額の違反事件となります。

3 「割戻金」を防ぐことは可能だったはず

 以下、厳しいことを述べます。
 下請法の禁止行為の中で、「買いたたき」は2番目に多い違反行為です(1位は「下請け代金減額」)。
 ビジネスシーンでは、買いたたきが禁止されていることは、常識に近いと思います。

 その買いたたき行為の典型的な手法として、「様々な名目の割引金を代金から差し引く。」という手法があります。
 下請法の教科書を見れば、どの本にも、買いたたきの名目として使われやすい様々な割引金の名称の例が多数挙げられています。

<買いたたきの名目として使われやすい様々な割引金の名称の例>

 「歩引き/分引き(ぶびき)」「リベート」「本部手数料」「一時金」「一括値引き」「オープン新店」「管理料」「割戻金」「協賛金」「協賛店値引」「協定販売促進費」「協力金」「協力費」「協力値引き」「決算」「原価低減」「コストダウン協力金」「仕入歩引」「支払手数料」「手数料」「特別価格協力金」「販売奨励金」「販売協力金」「不良品歩引き」「物流及び情報システム使用料」「物流手数料」「値引き」「年間」「割引料」


 「割戻金」は、教科書にも載っている、買いたたきの典型例です。

 N社ほど大きな会社が、「割戻金」は典型的な下請法違反であると気づかなかったのは、会社としての独禁法(下請法)に対する意識に問題があったからではないでしょうか?

4 買いたたき規制は強化されている

 近年、公正取引委員会や経産省は、下請価格対策を強化しています。
 令和4年2月、公正取引委員会は、買いたたき規制を含む優越的地位の濫用(乱用)を防ぐための「優越的地位乱用未然防止対策調査室」を新たに設置しました。

公正取引委員会「(令和4年2月16日)「優越的地位濫用未然防止対策調査室」の設置等について」

 毎年、買いたたき(価格転嫁拒否)が疑われる3業種を指定し、当該3業種に対する集中的な立ち入り調査を実施し、指導・勧告等をしています。 
 自動車・自動車部品業は令和3年に経産省から重点業種に指定されており、今回の摘発は一連の下請価格対策の結果と捉えられます。
 今後も、指定された業種を中心に、「買いたたき」を含む下請法違反の摘発が続く可能性があります。注意が必要です。

以上

コラム 執筆 担当

顧問弁護士・講師  多田 幸生 Yukio Tada

会社法務の法律論と現場実務の両方に明るい弁護士として活動。
以下をモットーに幅広い業種、規模の顧問を務める
【モットー】
・法律に関する情報を正確に世に伝えていく
・法務リスクを正確に伝えて経営判断に資する
・法務部員のキャリア形成に貢献する

→→プロフィールを見る